行間に想いを馳せて

usiromae2005-08-04

図書館で井伏鱒二の全集を借りた。わ・・・なんだこれ。

○とか線引いてあるくらいならよくあるのだが、ここまでとは。文字通り「行間」に文字が色々と書き込まれている。漢字に振り仮名が振ってあるのは序の口、ご丁寧に句読点や接続詞をいれてくれたり、言葉の訂正までしてある。

世の中色んな人がいるものだ。母に話すと「それこそ図書館で借りた本の醍醐味よ」と言われた。なるほど。それこそ、とまでは思えないが確かに面白いものかもしれない。

話を読むより、書き込みの方が楽しく思えてきた。よく調べてみる。書き込みは本の始めから終わりまであるわけではない。山椒魚と屋根の上のサワンの2話だけが標的となっている。それもサワンの方がひどい目にあっている(写真参照)。井伏はよく改訂版を出していたらしいので、改定箇所を示したのだろうか。ならば書き込み犯は研究熱心な人ということだ。しかし趣味で訂正してみたのであれば、いったい何を思ってこんなことをしたのだろう。次にこの本を借りる人に、よりセンスある文を提供しようというのだろうか。井伏本人がやった記録にしても 門のところ出口 の訂正なんて、どうでもいいというか、むしろ必要ないと思うのだけれども。

どんな人が書き込んだのだろう。字は真面目で私より綺麗だ。購入日を見ると昭和39、12、1とあった。私が生まれる前に書き込まれたのか、つい最近なのかもわからない。私以外にもこの書き込みを見て驚いた人がいたかもしれない。これから見て驚く人がいるかもしれない。この本を手に取った人だけが味わえる驚き。時代を経てこっそりとわかちあえるのは素敵なことかもしれない。