一日女子大生

友人と一緒に、彼女の通う女子大へ行ってきた。彼女は図書館で調べ物をするという。私はその間、図書館で彼女にビデオを借りてもらい、観ていることにしたのだ。

大学の門前には守衛さんがいた。大学構内は部外者立ち入り禁止。「別に部外者だってわからないから大丈夫だよ」と友人に言われて、そこを素通りすることにした。

「こんにちは」とかなんとか声をかけてくる守衛さん。ちょっとドギマギしてしまう私。しかし、びくついては怪しまれてしまうに違いなく、

「こんにちは」と爽やかに挨拶を返す友人に合わせて、私も守衛さんに向かって微笑んでみた。何の問題も無く門を通過。世の中笑顔さえあればいけてしまうものだ、うん。

こうしてまんまと女子大生になった私は、その勢いで図書館も入場。こちらの受付は普通顔でパスできた。笑顔じゃなくてもいけるのだ。もう何も怖くないと悟った私は、堂々とビデオを鑑賞させてもらうことにした。どのくらい堂々としていたかというと、バッグからちびちびと「よっちゃんいか」を取り出して食べたくらいだ。選んだ映画は「ドライビング Miss デイジー 」。あまり時間が無いので上映時間が90分ほどの短いものにしたのだ。

が。

開始してから30分くらい経過したときだった。静かな館内にアナウンスが響き渡った。「あと40分で閉館いたします。貸し出し希望の方は受付まで・・・」

う、全部見切れない。ビデオを選ぶのに時間がかかり過ぎていたらしく、ビデオを観る時間が無くなっていた事に気づいていなかった。慌てた私は禁じ手のビデオ早送りをした。ただでさえも会話が多い映画なのに早送りをすると会話が途切れることが無く、内容を追うだけでせいいっぱいになった。20分くらい飛ばして、さあここからラストまではゆっくり観ようと思ったその時、後ろから肩を叩かれた。一緒に来た友人だった。

「あのさ、もう人がいないんだよ。」
確かに辺りを見渡すと人がいない。土曜の大学で、閉館間際に入る方が珍しいといえば珍しいだろう。友人は続けた。

「このビデオ、私が借りて返さなきゃいけないのに、あなたが観てると怪しまれるんじゃないかと思うんだ。」
ちょっと離れたところでは、図書館員が椅子を片付けて閉館の準備をしていた。

仕方が無い。私は泣く泣くビデオを観るのを中断した。いったい何のための早送りだったんだ。