初運転。

免許を取ったのは2ヶ月前。それから一度も運転をしていなかった。家に車が無いもので。本当は一生取る気は無かった。マリオカートでは常に最下位をキープしているし、運動神経は鈍いし、危険なことはしたくない。しかし、来年以降必要そうなので仕方なく取った。案の定、自動車学校の適性検査では思い切り「運転に向いていません」と言われ、下手すぎて合宿の日程が一日延長した。

そんな私が初運転をしてしまった。私はここに恐怖の記憶をとどめておこうと思う。

それは通っている大学構内だった。車は「ライガー」。とんでもなく強そうな名前だが、農業用の小型運搬車だ。力持ちであるらしく、バルバルと凄い音を立てて走る。これに作業用道具を積んで倉庫に向かう数100mを、運転したいと名乗り出た。たいしてスピードが出るわけでもないのでナメてかかったのだ。

しかし、これがいけなかった。クラッチをいじくった瞬間、いきなり車が暴走した。音もいつもに増して凄まじい。バルバルどころかバルルン、バルルンと唸っている。

「ブレーキを踏むんだ!」
心で叫ぶが、ポンコツ車のブレーキは固くて効かない。パニックに陥った私の目前に事務棟の白い壁が迫ってきた。
うっすら死を覚悟したが、身体の方は「死んでたまるか」と思ったらしく無意識のうちにハンドルを切っていた。
グワンと方向を変える車。

「と、とりあえず助かった。」
しかし前方に見えてきたのは一直線に続く道。このまま暴走するわけにもいかない。よぼついた教授なんかをひき殺すはずだ。そんなことを思っているうちに、事務棟横の柱が目前に迫ってきた。車が旋回してしまったのだ。

「ああ、ここで楽になりたい・・・」
そう思ったときにはアスファルトに放り出され、腰をしたたか打っていた。
どうやら柱に激突したらしい。事故の瞬間はスローモーションになるというが、言われてみればそうだったかもしれない。
激突したときの音は私には聞こえなかった。しかし実際は派手な音を立てたらしく、後方で待機していた友人だけでなく事務棟からも人がわらわらと出て来た。

その時何故か「立たねば」と思った私は、よろめきながらも立ちあがり、そして何故かニヤついていた。大丈夫だよと言いたいのが半分、恐怖半分でしばらく笑顔がとれなかった。

駆け寄ってきた友人達が、開口一番言った。「凄かったよ。香港映画みたいだったよ!」笑う私と、笑う友。いやー、笑い事で済んで本当に良かったよ。あはははは。

その後一応病院へ行ったが、全くもって無事だった。ちょっと腫れただけ。ライガーも前方が少し凹んだくらいで済んだ。予想以上のスピードだったことと音が派手だったことでびっくりしたが、たぶんスピードは20キロも出てはいなかったんだろう。

とりあえず今回得た教訓は「車はおもちゃじゃない」。そうは言っても免許取った以上、運転するけれども。